ニッポンのお正月とは?
礼節の専門家/作家
飯倉 晴武
「年神様(としがみさま)」へ感謝をささげる“ニッポンのお正月”
日づけがひとつ変わるだけなのに、
新しい年を迎えると自然と気持ちが引き締まりますね。
門松、初詣、おせちにおとそ…などなど。
新年にちなんだ“ことば”や“ならわし”が数えられないくらいあることからもわかるように、
日本人にとって「お正月」は特別な意味をもっています。
では、どんなふうにしてニッポンのお正月がはじまったのでしょうか。
もともとお米を作る農耕民族であった日本人。
新しい年を迎えると、その年の豊作を願って神様にお祈りを捧げていたといいます。
皇室には、川に入って身を清め、天と地、東西南北の四方を拝む習慣があり、
この「身を清めて神様を迎える」神事が、お正月行事につながったのだそう。
自然のめぐみに感謝し、すべてのものに神様がやどると信じていた日本人は、
亡くなった先祖の魂が田畑や山の神様になり、子孫の繁栄を見守ってくれているのだと考えていたのだとか。
そして、その神様がお正月になると、実りとともに家々に一年の幸せをもたらすために、
高い山からおりてきてくると信じていたのです。
1年に1回、お正月にやってくる神様は、特別な存在。
だから、「年神様」と呼んでお迎えするしたくをしました。
お正月のさまざまな行事や風習は、この年神様へ
「今年も豊作でありますように」
「新しい年も、一家がそろって幸せに暮らせますように」
という願いと感謝の気持ちが、だんだんと形になったものなのです。
Welcome! 年神様
門松やしめ縄、鏡餅などのお正月飾り、おせちといったお正月にまつわる“ならわし”や食べものは、
みんな年神様をお迎えするための準備です。
まず、
「ここがわが家の入口ですよ」
という目印が門松。
高いところからおりてくる年神様が迷わずわが家を見つけてくださるよう、
玄関に立てました。
「うちはもう、お迎えする準備ができていますよ~」
というサインを送るわけですから、余裕を持って立てることも大切。
前の晩の大晦日に急いで立てることを「一夜飾り」、
「九」が苦しみに通じるという理由で29日に立てることも「苦立て」といって嫌われ、
末広がりの「八」につながる28日に立てるのがよいとされました。
門松と同じように、しめ飾りも年神様を迎えるために飾りつけられるもので、
清められた場所であることをあらわしています。
しめ縄に飾る植物には、シダの一種であるウラジロの葉には「不老長寿」を、
若芽が出たあと前年の葉が譲るように落葉するユズリハには「子孫繁栄」を、
ダイダイ(夏みかん)には「代々、続いていく」という意味にあやかり、
「家運盛隆」への願いがこめられています。
玄関から入っていらっしゃった年神様がお正月の間とどまってくださるよう、
神棚のほかに床の間、かまど(台所)など、
家のなかのおもだった場所にもお正月飾りをほどこします。
しめ縄にわらを使ったり、鏡餅に稲穂を飾るのは、
五穀豊穣(ごこくほうじょう)をつかさどる年神様をうやまう意味があり、
お米を主食としてきた日本人の感謝の気持ちのあらわれでもあります。
かまどの神様に感謝を捧げたのが「おせち」のルーツ?
昔から、さまざまな場所に神様が宿ると信じていた日本人。
庶民からみれば、「かまどの神様」もいたのだそう。
火がなければ料理もできないため、かまどの神様はとても大切にされていました。
食べものをもたらしてくれる神様へ、
「お正月の三が日くらいゆっくり休んでいただきたい」という気持ちから、
大晦日に作った料理をお正月の間に食べる習慣が生まれたのだとか。
「おせち」に保存食が多いのは、こんなところにも理由があるようです。
「おせち」という言葉は、お節句に食べる料理からきています。
日本には伝統的な年中行事を行う5つの節句があります。
もともと身分の高い天皇や公家、神事にたずさわる人たちの間には、
節句に神様にお供えものをし、それをさげていただく習慣がありました。
このとき神様にお供えした料理が「お節料理」だったのですが、
新年がもっとも大切な節句であることから、
お正月料理のことを「おせち」と呼ぶようになりました。
元旦はおせちを少しずつ盛りつけて神棚に上げ、
「この家を守ってください」
とお祈りします。
それを神様といっしょに食べることで、こちらの気持ちが神様に通じてほしいと祈りました。
おせちを食べるときにつかう「祝い箸」は、一方を年神様が、もう一方を人が使うために、
両端が細くととのえられています。箸袋には、家族それぞれの名前を書いて、幸せをねがいます。
鏡餅にも意味があり、神様に捧げるために特別に作ったお餅をさします。
二段がさねで鏡のようにキラキラしているので鏡餅と呼ばれるようになりました。
また、おせちといっしょにいただく「おとそ」は、
天皇にお正月の食前酒として献じていた「屠蘇(とそ)」という薬のお酒のことでした。
新しい年の健康を願って飲む漢方薬からはじまったものだそうです。
新しい年を大切にしたい、豊作にしていただきたい…
そんな感謝と祈りの気持ちから生まれたお正月の“ならわし”や食べもの。
そこには1年に1回、わが家にやってきてくださる年神様をうやまい、
もてなす気持ちがたくさんつまっています。
こうして迎えた年神様がお正月の間、
わが家にいらっしゃって1年の幸せをもたらしてくれるのだと思うとワクワクして、
お正月の準備が楽しみになってきませんか?